2006年06月16日

治療プログラム(8)-1

第8回(2006年6月5日 月曜日)

その日は、ママが来るのが窓から見えた。僕はすかさず窓のところに行き、ママに手を振った。ママも僕に手を振ってくれた。

ママが受付を済ませ中に入ると、アシスタントの先生だけが待っていた。

ママは、僕のいないところで、また話がしたいのかと思って、ママの思っていることも伝えるいいチャンスだと思って、心の準備をしていたが、
 
「オラ二オスいなくなっちゃったんです。どこに行っちゃったんでしょうねー。」

なんてことを言うもんだから、調子が狂った。ナーンだ、私に話があるんじゃなかったのか。

先生が、ぶつぶつ言いながら、歩き始めたので、ママも後から付いて行った。

ふと、何か気配がして、横を見ると、僕がテレビの陰に隠れていた。

「BOO!」って言って、ママをおどかす作戦だったのに、僕は、ただ恥ずかしそうに、ニコニコしているだけだった。

そのなんともおどおどした僕の笑顔を見て、ママは、大学時代の同級生のことを思い出した。


その人は、男の人で、ママは4年間の大学生活の中で、一度も声を聞いたことがない。 挨拶をしても、ただあいまいな笑みを浮かべるだけで、何の言葉も発しなかった。

一番印象に残っているのが、ドイツ語のクラスでの事。

出席を取るとき、先生が、ドイツ語で名前を呼び、生徒がやはりドイツ語で返事をする。

その日も、先生はいつものように出席を取っていた。そして、その人の番が来た。名前を呼んでも、何の返事もない。先生がもう一度、念を押して名前を呼んでも、また何の返答もない。

 「oo君いませんねー? ハイ欠席ー」

ママは、正直言って驚いた。その人は、ちゃんとママの斜め後ろに座っていたのに。聞こえなかったわけでもないだろう。

ママと、目が合うと、恥ずかしそうな、罰の悪そうな笑みを浮かべているだけだった。

大学卒業後は、それっきりで、今どこで何をしているかわからないが、今思えば、その人も、緘黙症だったのかもしれない。


posted by なんでさん at 10:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 場面緘黙症治療(Reception Year) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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